栃木の資源を武道と掛け合わせ
地域全体で盛り上げていく
栃木県スポーツコミッション
杉本 理恵 氏
武道
自治体
栃木
誘致・誘客
保存・継承
- DATA
- ●本社所在地:
栃木県宇都宮市塙田1-1-20
(栃木県庁スポーツ振興課内) - ●設置年 2023年
- ●事業内容:スポーツツーリズムの普及等
スポーツを活用した地域活性化の取組のひとつとして、武道を有力な地域資源としてこれまで以上に磨き上げることを目指し、武道ツーリズムの推進に取り組んできた栃木県スポーツコミッション。事務局を担う杉本理恵氏に、具体的な施策内容や地域事業者との連携、課題や今後の展望について、Q&A形式で伺いました。
- 栃木県スポーツコミッションとは?
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当コミッションは、スポーツを通じて県内外からの交流人口を拡大し、地域活性化につなげることを目的に、令和5年7月に設立されました。国際大会を含む大規模大会や、スポーツ合宿などの誘致、スポーツと観光を組み合わせた地域づくり、そして武道ツーリズムの推進が主な活動内容です。コミッション立ち上げのきっかけとなったのは、令和4年度に栃木県で開催された第77回国民体育大会「いちご一会とちぎ国体」及び第22回全国障害者スポーツ大会「いちご一会とちぎ大会」でした。両大会に向けたハード面の充実はもとより、県民の皆様のスポーツへの関心の高まりなど、ソフト面においても様々なレガシーが構築されました。
こうした有形・無形のレガシーを継承し、「新しいとちぎづくり」に繋げていくため、栃木県と栃木県スポーツ協会を事務局に、市町、プロスポーツチーム、観光団体等の参画を得て、官民連携によりコミッションを設立し、スポーツを活用した地域活性化の取組を推進することとしました。
- さまざまなスポーツがある中で、武道ツーリズムに着目した理由は?
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大会開催後の令和5年度に、トレンドや消費者ニーズを捉えたスポーツツーリズムとして栃木県では何ができるかを議論する有識者検討会を実施しました。サイクリングやアウトドア、ゴルフなどはすでにツーリズムとして進んでいましたので、国等の状況や、本県が持つ強みを踏まえ、「武道ツーリズムの取組が可能な環境にある」とされました。
栃木県は、武道館や弓道場が充実しており、剣道や弓道などの部活動が盛んで、高い競技力を持つ選手・チームが存在しています。さらに、戦後の剣道復活の地である日光東照宮をはじめ、平家物語「扇の的」で有名な弓の名手・那須与一が誕生したと伝えられる大田原市や、初代横綱である明石志賀之助の出身地である宇都宮市など、武道に関連する歴史的資源・文化的資源が豊富で、各市町等が地域づくり等で活用しています。そうしたことを踏まえ、栃木県の強みを生かし、打ち出していける武道ツーリズムを進めていくこととなりました。
- 武道ツーリズムにどのように取り組んできましたか?
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まだ武道ツーリズム自体を知らない方が多かったので、機運醸成と受け入れ体制を整えるため、武道ツーリズム推進に向けた土壌づくりから始めました。具体的には、令和6年度にスポーツ庁の補助金を活用して武道ツーリズムのモニターツアーを実施。新しい取組であるので、県としては、実際に取り組んでいけるのかどうかと、そもそも需要があるのかを確認するとともに、取組主体が必要とする実証データを得ることを目的に開催しました。結果、武道ツーリズムの需要に手応えを感じましたし、特に弓道体験は、参加者の指導役として栃木県弓道連盟の先生方のご協力により満足度の高い体験を作ることができ、参加者から高評価をいただきました。
また、旅行会社の企画提案をもとに、那須与一や藤原秀郷など、弓の名手だったとされる武将が栃木県にゆかりが深いことをふまえたストーリー性のある周遊コースを用意したことで、栃木県を深く知っていただけたと感じています。現在は弓道だけでなく、他の武道種目でも地域資源と絡めて独自性のある魅力的な体験の造成を促していこうと取り組んでいます。
- 取組の中で課題になったこととは?
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モニターツアーを終え、手応えは感じつつも、実際に誰が企画し、販売していくのかが課題として上がりました。栃木県スポーツコミッションは任意団体ですので商品として販売することはできませんし、こうした体験を扱う事業者がこれまで県内にはいませんでした。そのため令和7年度は、武道の指導者で事業に関心を持って取り組んでくださる方を探したり、そうした事業者の窓口になってくれる市町や観光協会への支援方法を考えたりなど、武道ツーリズム推進のための体制づくりを進めてきました。
具体的には、武道ツーリズムを知ってもらう機会としてセミナーを開催したほか、事業に興味を持った方にはワークショップに参加してもらい、体験商品の作り方などを学んでいただきました。その上で実際に事業を始めたいという方には、補助金など資金面でのサポートも進めています。事業に興味を持っていただき、取組を理解していただき、さらに実際に体験の提供や商品化をしていただくまでには時間がかかると感じています。まだ手探り状態ではありますが、武道ツーリズムの目的や魅力をできるだけ多くの方に知っていただけるように努めています。
- 今後の取組について考えていることは?
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当コミッションとしては、県内の武道そのものの保存・継承・発展を目指していきたいと考えています。武道関係者からは、少子高齢化による競技者の減少を課題として伺っているところです。武道ツーリズムにより、武道を通じて県民が活躍する機会を創出し、県外・国外の人々を呼び込むことは栃木県の武道の価値向上につながりますし、「とちぎの武道」としてブランド化させていくこともできます。特に体験は外国人旅行客が主なターゲットと考えているので、武道をカジュアルに楽しみたいという方もある程度受け入れつつ、武道の深い精神性をご理解いただける方も満足できるような機会を作っていきたいと思っています。
そのためにも、武道や歴史を深く伝えられる体制を整えていきたいです。実際、モニターツアーを実施した際、外国人の体験者から武道や歴史に関する英語や多言語による説明についての意見もいただいていますので、今後の取組では、言語サポートも強化していく必要があるとも感じています。
弓道や剣道、相撲などのさまざまな武道ツーリズムを複数の市町で取組むことができれば、それぞれを巡るツアー体験もできますし、「とちぎの武道」というブランドをさらに高めることができます。そのためにもまずは、ストーリー化できる個別の取組から魅力的な体験を作る方を発掘し、県として一体的にPRしていくことを目指しています。
- これから事業を始める方に向けてアドバイスはありますか?
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私たちもまだ取組半ばではありますが、ツーリズムの観点では、武道と地域を絡めた体験を提供することがとても大切なことだと思いますので、まずは地域の特性を理解し、他の自治体や団体の活動状況も参考にしながら取組を進めるとよいと思います。私たちも沖縄県で進めている沖縄空手の取組の視察に行くなどしました。もちろんそのまま真似ることはできませんが、地域にあった形にどう落とし込んでいるかを学ばせていただきました。反対に、私たちがワークショップを開いた際には長崎県の方が視察に来られていました。すでに取り組まれている自治体や団体を参考にしながら、自分たちの地域にどう落とし込めるかを考えていくとよいと思いますし、武道ツーリズムを一緒に盛り上げていければと思います。
