石川県の中心都市である金沢はかつての城下町。その金沢の礎を築いたのが、加賀藩祖であり戦国武将の前田利家です。1583年に前田利家が金沢城に入城し、そこから約290年間、前田家は金沢を居城として政治・経済・文化の発展に努め、特に工芸や芸能の発展に尽力しました。こうして、今もなお武家文化が受け継がれている金沢には、武道と芸道、その両道の根底に流れる武士道の精神を体験できる場所がたくさんあります。
特に金沢は、江戸時代(1603〜1868年)から弓道が盛んな土地柄。弓道は弓を引き的に向けて矢を射る武道で、弓道を通じて礼儀作法や美しい動作も学びます。「石川県立武道館」で行われる弓道体験教室プログラムでは、石川県弓道連盟会員による指導のもと、安全に弓道体験ができます。2023年3月には「兼六園弓道場」が完成し、こちらでも弓道体験ができる予定です。
竹刀を用いて一対一で打ち合う剣道からも武士道の精神が学べます。「彩士館」では、「礼に始まり、礼に終わる」剣道の礼法などの基本所作、竹刀の握り方や構え方、素振りや打ち込みなどを丁寧に指導してくれます。
また、本物の日本刀を実際に持って鑑賞できる「四十萬谷本舗(しじまやほんぽ)」も注目のスポットです。金沢の伝統発酵食品であるかぶら寿しを約150年間作り続ける老舗の5代目・四十万谷正久(しじまやまさひさ)氏は武士の子孫。刀についてわかりやすく解説してくれるほか、居合道の演武も披露してくれます。
武道だけでなく、茶道も武士のたしなみには欠かせないもので、加賀藩では茶の湯文化が奨励されていました。金沢では様々な場所で茶道体験ができますが、「西田家庭園 玉泉園」では椅子に座っての茶道体験(立礼式)ができます。
茶道は通常、正座で行われますが、外国人にも気軽に体験できるようにしたプログラムで、英語スタッフの説明付き。金沢最古の茶室で美しい庭園を眺めながら、季節の生菓子とともにお茶をいただきます。
金沢の食を知るにはまず「近江町市場」へ。市民からは「おみちょ」の愛称で親しまれていて、鮮魚や青果、精肉、惣菜など約170の専門店が集まっています。
市場には新鮮な海鮮系の飲食店が多く、朝から行列ができることも。何種類もの刺身が丼にてんこ盛りです。特におすすめなのがガスエビの丼です。ガスエビは、鮮度が落ちるのが早く、変色しやすいことから産地でしか流通しない「幻のエビ」とも呼ばれています。旬は春先から初夏にかけてですが、お店によっては冬でも食べられるところも。濃厚な甘みと旨みは想像以上の美味しさです。
また、郷土料理なら「じぶ煮」が有名で、江戸時代から食べられたとされる武家料理でもあります。肉や野菜、麩などを煮込む「じぶ煮」は、汁にとろみがあるのが特徴。加賀藩のお殿様お抱えの料理人がのちに始めた「料亭 大友楼」内にある「茶寮一井庵」では、単品でも「じぶ煮」を提供しているので、格式のある料亭でその味が楽しめます。
金沢市街には、国の史跡に指定されている金沢城公園や、日本三名園の一つで加賀藩歴代藩主により長い年月をかけて形づくられた兼六園など見どころがたくさんあります。
ひがし・にし・主計(かずえ)町と茶屋街も3つあり、特にひがし茶屋街は、金箔や和菓子、小物などの土産処、工芸ギャラリーなどのほか、茶屋を改装した飲食処やショップも点在。昼間は賑わっていますが、夜になると雰囲気はがらりと一転。お座敷から芸妓による遊芸の音色が聞こえてきます。木虫籠(きむすこ)と呼ばれる美しい出格子が昔の面影をとどめていて、そぞろ歩けば色濃く残る武家文化が感じられます。